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東京高等裁判所 平成7年(行コ)157号 判決

控訴人(原告) 浅井和男 外一三名

被控訴人(被告) 東京都公安委員会

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  本件を東京地方裁判所に差し戻す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二事案の概要

本件事案の概要は、原判決七頁一行目の「良好な」の次に「風俗」を、八頁二行目の「都市計画法」の次に「(ただし、平成四年法律第八二号による改正前のもの。)」を、一六頁一〇行目の「二四条)、」の次に「地域の個別的、具体的な事情に応じて、(2) 営業時間を制限し(法一三条)、」をそれぞれ加え、一〇行目の「(2)」を「(3)」と、一一行目の「(3)」を「(4)」とそれぞれ改め、次のとおり、控訴人らの原告適格に関する当審における補充主張を付加するほかは、原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人らの原告適格に関する当審における補充主張)

一  法の昭和五九年大改正による変質・住居集合地域の特質

1 法は、昭和五九年の大改正により、売春や賭博等の違法行為の取締法から、公共の福祉の観点に立って、風俗営業と地域住民との調整的視点を加味し、地域住民のために行政による風俗営業の適正化をめざすものへと法の性格を大きく変化させた。すなわち、法は、右の大改正により、風俗営業制限地域に関する規定(法四条二項二号)、営業時間の制限に関する規定(法一三条)、騒音及び振動の規制に関する規定(法一五条)等を新設追加して、「地域」に着目してその具体的な事情に応じた制限、規制を行うものとし、地域住民の利益保護を図る趣旨を含むようになったのであるから、控訴人らは、本件許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者である。

2 保護対象施設の設置者については、判例は、「善良で静穏な環境の下で円滑に業務を運営するという利益をも保護していると解すべきである」として、保護対象施設の設置者が当該施設周辺の営業所に係る風俗営業の許可の取消しを求める法律上の利益を有することを認めている。そして、保護対象施設の周辺地域を風俗営業の禁止区域としたのが保護対象施設の特質に着目して定められたものであると同様、「住居集合地域」を風俗営業の禁止区域としたのは、地域の特質に着目して定められたものであり、保護対象施設の設置者に「善良で静穏な環境の下で円滑に業務を運営するという利益」があるならば、「住居集合地域」の住民にも「善良で静穏な環境の下で円滑に生活する利益」があるというべきである。

特に、第一種住居専用地域については、建築基準法に基づく用途規制、形態規制、騒音規制法に基づく騒音規制、振動規制法に基づく振動規制等の各種の厳しい規制がされており、法による風俗営業の規制も、第一種住居専用地域に係る右のような多段階の複合的規制の一内容をなし、これらの規制によって、第一種住居専用地域内の構成員という特定の者が受忍し、あるいは享受すべき生活環境の質が具体的に定められているのである。

すなわち、法四条二項二号、条例三条一項一号による規制は、現に第一種住居専用地域に居住するという個別的な事情を前提に、その居住者の善良で静穏な環境での生活がその性質上風俗営業に相容れない特殊性を有する点に着目し、その生活を個別具体的に保護することを目的として風俗営業を禁止したと解されるから、控訴人らは、本件許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者というべきである。

二  新潟空港訴訟最高裁判決及びもんじゅ行政訴訟最高裁判決との対比

1 最高裁判所平成元年二月一七日第二小法廷判決・民集四三巻二号五六頁(以下「新潟空港訴訟最高裁判決」という。)は、航空法の目的の中には騒音防止の観点が入っており、定期航空運送事業免許の審査において、事業計画に基づく航空機の航行による騒音障害の有無及び程度を考慮に入れたうえで判断すべきものとしているところから、航空法は飛行場周辺に居住する者が航空機の騒音によって著しい障害を受けないという利益をこれら個々人の個別的利益としても保護しようとしているものと解し、一定の範囲の飛行場周辺住民に定期航空運送事業免許の取消訴訟の原告適格を認めた。この新潟空港訴訟最高裁判決の考え方に照らしても、控訴人らは、本件許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者というべきである。

すなわち、法一三条(営業時間の制限)や一五条(騒音及び振動の規制)の規定が設けられていることから明らかなように、法の目的の中には、航空法と同様に、風俗営業の営業所周辺に対する騒音防止の観点が入っているのであり、その営業の許可等の審査は、法の規制に従った騒音障害の有無及び程度を考慮に入れてなされるものであり、また、ぱちんこ屋の営業においても、騒音等による障害の被害者はぱちんこ屋周辺の一定の地域的範囲の住民に限定され、その障害の程度もぱちんこ屋に接近するにつれて増大する点において航空機騒音の場合と同じであるから、法は、ぱちんこ屋の設置が禁止されている第一種住居専用地域に居住する者に対し、ぱちんこ屋の騒音等によって障害を受けないという利益を、これら個々人の個別的利益としても保護しようとしているものと解すべきである。

2 また、最高裁判所平成四年九月二二日第三小法廷判決・民集四六巻六号五七一頁(以下「もんじゅ行政訴訟最高裁判決」という。)との比較においても、控訴人らは、本件許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者というべきである。

すなわち、保護対象施設の設置者が当該施設周辺の営業所に係る風俗営業の許可の取消しを求める法律上の利益を有することに異論はないが、これら保護対象施設と同様、住居集合地域、とりわけ第一種住居専用地域に居住する住民は、都市計画法、建築基準法、騒音規制法、振動規制法等による規制の結果、他の地域に居住する住民と比べて、あらゆる角度からみて人間が居住するのに最適な清浄なる環境を享受する利益を有するものとされており、法も、このような第一種住居専用地域にぱちんこ屋の建設を禁止し、同地域の住民には清浄な風俗環境を享受するという個別的な利益を付与したものと解すべきであるからである。

3 もっとも、もんじゅ行政訴訟や新潟空港訴訟と本件との最大の相違点は、「被侵害利益の直接性と大きさ」であるように思われる。しかし、保護されるべき利益の大小を判断要素とするならば、許可された施設の公共性の大小も検討されなければならない。高速増殖炉もんじゅは、その安全性に問題があるとしても、原子力発電所という原子力の平和利用のための極めて公共性の高い施設である。空港も、もはや現代の生活においてなくてはならない公共性の高い施設である。かかる公共性の高い施設の場合には、被侵害利益が重大である場合に限って原告適格を認めるべきであろう。ところが、ぱちんこ屋は極めて射幸性の高い、健全な娯楽とはほど遠いギャンブル施設であり公共性は皆無であるから、周辺住民に保護すべき利益が存在する以上、その大小を問わず原告適格を認めるべきである。

三  違法性の程度と原告適格との関係について

本件は、被控訴人において、許可申請に係るぱちんこ屋の施設の一部である駐車場のスロープが第一種住居専用地域にはみだしていることを熟知していたにもかかわらず、形式的に営業主体を別法人にする方法を採用させるという脱法的な指導を行って、営業許可をしたという事案であり、その違法性は重大である。

行政訴訟は、一方では行政処分によって損害を被った人の利益の回復を図るという目的とともに、他方では、住民に対し違法な行政処分を是正する機会をも保障するとの目的を有している。本件において、違法な行政処分ないし違法状態が放置されれば、都市環境の悪化を招くことは明らかであるから、原告適格の有無に関する判断要素として、行政処分の違法性の程度及び重大性をも併せ考慮すべきである。

第三当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人らの本件訴えは原告適格を欠く不適法なものであるからこれを却下すべきであると判断する。

その理由は、一のとおり原判決の説示を補正し、二のとおり原告適格に関する控訴人らの当審における補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「第三 争点に対する当裁判所の判断」に説示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の補正

1  原判決二〇頁一行目の「生じた」の次に、「私人等権利主体の」を加え、同行の「国民の」を「その」と、九行目の「私人に」を「権利主体に」と、一一行目の「個人の」を「権利主体の」と、二一頁一一行目の「右の制約に」から二二頁二行目の「者として、」までを「当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、」と、それぞれ改める。

2  原判決二四頁一行目の各「規制」をいずれも「制限」と改め、同行の「すること」の次に「等」を、同行の「(法一条)、」の次に「風俗営業を許可制の下におき(法三条)、さらに、」をそれぞれ加え、五行目の「右法の文言からすれば、」を「これらの規定によって」と改め、九行目の「達成するため」の次に「であると解されるの」を、一〇行目の「良好な」の次に「風俗」をそれぞれ加え、一一行目の「したものであり、」から二五頁三行目の「しかも、」までを「する趣旨のものと解されるところである。そして、」と、二五頁五、六行目の「処分ではないことを考えると、」を「処分ではなく、右の各関係規定が風俗営業の許可及び風俗営業制限地域の設定に係る制度を通して保護しようとしている利益が、右のように一定範囲の地域における良好な風俗環境の保全という一般的な環境上の利益であることに照らせば、」とそれぞれ改め、二五頁一一行目の「右のような、」の前に「これを要するに、」を加える。

3  原判決二六頁八行目の「各営業所につき」の次に「、地域の個別的、具体的な事情に応じて営業時間を制限し、」を加え、八行目から九行目の「振動や広告・宣伝方法の規制がされている」を「振動を規制することとしている」と、二七頁一行目冒頭から四行目の「規制は、」までを

「 たしかに、法が、風俗営業の営業時間を制限し、また、営業に伴う騒音、振動を規制するについて、法施行令で定める基準の範囲内において、条例をもって、地域の具体的な事情に応じた制限や規制をすることができるものとしていること(法一三条二項、一五条、法施行令八条、九条)は原告ら主張のとおりであるが、これらの規制も、」と、

七行目の「規定をとらえて、」を「規定が、一定の範囲内において地域の具体的な事情に応じた条例による制限や規制をすることができるものとしているからといって、」と、それぞれ改める。

二  原告適格に関する控訴人らの当審における補充主張に対する判断

1  控訴人らは、法は、昭和五九年の大改正により、売春や賭博等の違法行為の取締法から、公共の福祉の観点に立って、地域住民のために行政による風俗営業の適正化をめざすものへと法の性格を大きく変化させ、地域住民の利益保護を図る趣旨を含むようになったのであるから、控訴人らは、本件許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者である旨主張する(前記第二、一1)。

たしかに、法が、昭和五九年の大改正により、「風俗営業等取締法」から現行の「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」とその名称を変え、内容的にも、営業許可の基準や手続等を整備(法三条ないし五条)し、また、風俗営業者の遵守事項及び禁止行為に関する規定を整備(法一二条ないし二三条)したうえ、この遵守事項の違反については第一次的に指示(法二五条)や営業の停止等(法二六条)の行政措置で対応することとするなど、それまでの取締法規としての色彩が強いものから、行政による風俗営業の健全化、適正化を図ろうとするものへと法の性格を大きく変化させたことは控訴人らの指摘するとおりといえよう。

しかしながら、控訴人らは、本件許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者であるとする根拠の一つとして風俗営業制限地域に関する規定(法四条二項二号)が新設されたことを挙げるが、同規定は、それまで条例に委任され、まちまちであった営業許可の基準を全国的に斉一化するとともに、右の許可基準のうち、風俗営業制限地域の基準については、全国的な斉一化と地域の実情との調整を図るために四条二項二号の規定がおかれたものであり、営業時間の制限に関する規定(法一三条)や騒音及び振動の規制に関する規定(法一五条)が新設されたのも、同様に、それまで条例に委任され、まちまちであった風俗営業者の遵守事項を全国的に斉一化するとともに、地域の実情との調整を図るために設けられたものであって、これらの規定による風俗営業の制限ないし規制の趣旨、目的は営業所周辺ないし当該地域の良好な風俗環境を保全しようとするものであるから、これらの規定が新設されたことをもって、直ちに控訴人らが本件許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するとする論拠にはならないというべきである。

また、これらの規定が、「地域」に着目し、その具体的な事情に応じた制限ないし規制を行うものとしていることをもって、直ちにその地域に現に居住する個々人の生活環境上の利益を個別的に保護することをも目的としていると解することができないことも明らかである。

2  控訴人らは、法四条二項二号、条例三条一項一号による規制は、現に第一種住居専用地域に居住するという個別的な事情を前提に、その居住者の善良で静穏な環境での生活がその性質上風俗営業に相容れない特殊性を有する点に着目し、その生活を個別具体的に保護することを目的として風俗営業を禁止したと解されるから、控訴人らは、本件許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者というべきである旨主張する(前記第二、一2)。

たしかに、第一種住居専用地域については、建築基準法、騒音規制法、振動規制法等によって「低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域」としての性質に適合した内容の規制がされており、法による風俗営業の規制も、第一種住居専用地域に係る各種の法律に基づく各種の規制の一内容をなし、これらの規制によって、第一種住居専用地域内に居住し、あるいは財産権を有する者が受忍し、あるいは享受することができる生活環境の質が具体的に形成されていくことになることは控訴人らの指摘するとおりであるといえよう。

しかしながら、そもそも法が風俗営業の許可及び風俗営業制限地域の設定に係る制度を通して保護しようとしている利益が、一定範囲の地域における良好な風俗環境の保全という一般的な環境上の利益であるうえ、風俗営業の許可自体が周辺の居住者等の生命、身体、財産といった一般的公益の中には吸収解消され難い個別性の強い私的利益に対する侵害を招来する性質の処分ではないことに照らせば、条例三条一項二号が保護対象施設の特質に着目して診療所等の設置者の「善良で静穏な環境の下で円滑に業務を運営するという利益」をも個別的に保護しているのと同様な趣旨において、同項一号による規制が、現に第一種住居専用地域に居住している個々人の静穏な生活が風俗営業と相容れない性質のものである点に着目し、その生活環境上の利益を個別具体的に保護することを目的として風俗営業を禁止したものと解することはできないというほかはない。

3  控訴人らは、新潟空港訴訟最高裁判決の事案との対比において、法の目的の中には、航空法と同様に、風俗営業の営業所周辺に対する騒音防止の観点が入っていること等から、法は、ぱちんこ屋の設置が禁止されている第一種住居専用地域に居住する者に対し、ぱちんこ屋の騒音等によって障害を受けないという利益を、これら個々人の個別的利益としても保護しようとしているものと解すべきである旨主張する(前記第二、二1)。

しかしながら、もともと、航空機による騒音は、飛行場の周辺に居住する者に対し社会通念上著しい生活妨害等の障害を与えるおそれのある性質のものであるところから、航空法は「航空機の航行に起因する障害の防止を図るための方法を定め」ることをその目的の一つとしている(同法一条)のであり、また、関連法規である公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止に関する法律は、公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止、航空機の離着陸のひん繁な実施により生ずる損失の補償その他必要な措置について定めるものとしている(同法一条)ところであって、それゆえ、航空法の関係規定が飛行場周辺に居住する者が航空機の騒音によって著しい障害を受けないという利益をこれら個々人の個別的利益としても保護すべきとする趣旨を含むものと解することができるのである。これに対し、もともと、社会通念に照らせば、風俗営業活動に伴い通常生ずる騒音が、航空法やその関係法規が想定しているような航空機騒音と同質の、周辺居住者等に対し著しい生活妨害等の障害を与えるようなものであるとはいい難いのであって、法一五条が、風俗営業者の遵守事項として、一定の基準以上の騒音が生じないように営業を営まなければならない旨規制している趣旨は、風俗営業に伴う騒音ないし喧騒が営業所の周辺に及ぶことを規制し、もって営業所周辺の善良の風俗と清浄な風俗環境といった一般的公益を保持しようとするものと解されるのである。したがって、法が、風俗営業について、営業所周辺に対する騒音防止を規制の態様の一つとして取り込んでいるからといっても、それは、右のような環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、ぱちんこ屋の設置が禁止されている第一種住居専用地域に居住する者に対し、ぱちんこ屋の騒音によって障害を受けないという利益をこれら個々人の個別的利益としても保護しようとする趣旨のものと解することはできないというほかはない。

4  控訴人らは、もんじゅ行政訴訟最高裁判決との比較においても、控訴人らは、本件許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者というべきである旨主張する(前記第二、二2)。

しかしながら、もんじゅ行政訴訟最高裁判決は、原子炉の設置を主務大臣の許可に係らしめ、原子炉設置者の技術的能力や原子炉の安全性等に関する許可基準を定めている趣旨や、それらの基準が考慮している被害の性質等にかんがみて、これらの関係法規は、単に公衆の生命、身体の安全、環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、原子炉周辺に居住し、原子炉の事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解し、設置許可申請に係る高速増殖炉から一定の範囲内の地域に居住している住民は原子炉設置許可処分の無効確認を求めるにつき行政事件訴訟法三六条にいう「法律上の利益を有する者」に当たるとしたものである。すなわち、右の事案において無効確認が求められた原子炉設置許可に係る関係法規が許可処分を通して保護しようとしている利益は、周辺住民の生命、身体の安全等の一般的公益の中に吸収解消され難い個別性の強い法益であるのに対し、法の関係規定が風俗営業の許可及び風俗営業制限地域の設定に係る制度を通して保護しようとしている利益が、右のような一般的公益の中に吸収解消され難い個別性の強い法益ではなく、既に繰り返し述べたように、一定範囲の地域における良好な風俗環境の保全という一般的な環境上の利益であることに照らせば、もんじゅ行政訴訟最高裁判決との比較においても、控訴人らは本件許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者というべきである旨の控訴人らの主張を直ちに採用することはできない。

5  控訴人らは、ある行政法規が不特定多数者の利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かについて、当該利益の大小をその判断要素とするならば、許可された施設の公共性の大小も考慮すべきである旨主張する(前記第二、二3)。

しかしながら、ある行政法規が不特定多数者の利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきものであり(もんじゅ行政訴訟最高裁判決)、右の判断基準からすれば、取消しないし無効確認を求められている許可に係る施設等の公共性の大小が当然に右の判断要素に含まれると解するのは困難であるといわざるを得ない。いずれにせよ、本件において、ぱちんこ屋が客に射幸心をそそるおそれのある風俗営業であって公共性がないものであるからといって、控訴人らに本件許可の取消訴訟の原告適格を認めることができることになるものでないことは明らかである。

6  控訴人らは、行政訴訟の原告適格の有無に関する判断要素として、行政処分の違法性の程度及び重大性をも併せ考慮すべきである旨主張する(前記第二、三)。

しかしながら、行政事件訴訟の下における抗告訴訟は、私人等の権利主体の権利・利益の救済を図ることを主眼とするものであり、行政の適正な運営を確保することは抗告訴訟による権利主体の権利・利益の救済を通して達成される間接的な効果にすぎないばかりでなく、もともと、抗告訴訟の原告適格は、訴訟の適法要件の問題であって、行政処分の違法性の程度という本案に関わる問題とは次元を異にするものであるから、控訴人らの右主張は採用できない。

第四結論

以上のとおりであるから、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれをいずれも棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩崎勤 瀬戸正義 川勝隆之)

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